PLHニュース・トピックス

2024.05.25

お知らせ

【PHAJ】PHAM2024 報告

2024年プラネタリーヘルスサミット/第6回プラネタリーヘルスアライアンス年次総会 ―エビデンスからアクションへ:報告

開催期間・場所: 20244月16-19日・サンウェイ大学, マレーシア

学会website:https://www.pham2024.com/

2024プラネタリーヘルスサミット/第6回プラネタリーヘルスアライアンス年次総会(以下 PHAM2024)がマレーシアのサンウェイ大学で開催されました。本大会は、初めて同窓会がアジアで開催され、世界63カ国から総勢約1000名の参加者が集まり、世界的な課題にどのように協力し立ち向かい、行動を起こしていけるかについて議論が4日間にわたって行われました。様々なセッションで100名を超える発表者が、課題、活動事例、行動へつなげるために必要な事や、将来ビジョン等を共有し、120を超えるポスター発表がありました。

この会議の中で、日本ハブのメンバーが中心となって提案した3つのセッションをはじめ、多くの領域(AI等の活用、新しい形でのファイナンシャルシステム、メンタルヘルスに関するトピック等々)について4日間にわたり熱い議論が繰り広げられ、そして最終日には、私たちがどのように行動を起こす必要があるのかの行動プランが出されました。以下、その内容について報告いたします。

特別 プレナリーセッション:サイロを打ち破る-プラネタリーヘルスのためのシステム変革 (417日)

本セッションでは、リードスピーカとして日本の環境省環境保健部から高木 恒輝 博士が「日本の環境行政とプラネタリーヘルス」について発表があり、日本政府の主要計画に「プラネタリーヘルス」に係る記述がある「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針改定版(2023年)」や「第6次環境基本計画(2024年予定)」をはじめ、省庁横断型の「気候変動適応法(2023)」が紹介されました。また、マレーシアからもマレーシア科学アカデミー名誉教授Asma Ismail氏によって、2024年7月に出されるマレーシア国家戦略が紹介され、サイロを打ち破る重要性について強いメッセージがありました。そしてマレーシア ブルサ・ベルハドの会長であるAbdul Wahid Omar氏は、ビジネスサイドから、様々に出されている持続可能な開発に係るフレームワークを包括(comprehend)と連結(sequence)の重要性や国と企業の連携等についてサイロを超えた協力関係のお話がありました。また、WHOで様々な感染症対策に取り組むGarry Aslanyan氏からは、言葉を一般化していく難しさはあるが、あきらめない事などについて、パネルディスカッションが展開されました。そして、全パネリストによって、プラネタリーヘルスのためにサイロを打ち破っていくために、領域を超えてコミュニケーションを続けていく必要性について議論されるとともに、これらを実践していける人材育成(教育)の重要性が強調されました。これら全体議論を通して、地球の現状を考えると、これまで領域別に展開されている様々な事象にとらわれている時間はなく、今動き出す必要性を感じました。このサイロは、専門領域だけではなく政府、ビジネス、教育などのレイヤー間においても存在しており、今この強固な固定概念について、一度本来の目的を見つめなおして再構築すべきであることを学んだセッションでした。

セッション:Indigenous & Local Perspectives(先住民と地域での視点)(417日)

現在議論されているプラネタリーヘルスの概念は、ランセット誌の論文がきっかけとなっていて、その意味で欧米的な見方であるとも言えます。人間社会と地球(環境・生態系)との関係を見つめ直すのがプラネタリーヘルスの基本にあることを考えると、西洋と東洋との間には違いがあるかもしれません。最近の議論において、いわゆる先住民の世界観が重視されているのもこうした背景を踏まえているものと思われます。本セッションでは、アジア・オセアニアにおける人間―自然の関係について、4人のスピーカーから話題提供をいただき、議論をおこないました。カントー大学のTuan教授はベトナムのメコンデルタに暮らす人々にとっての水・川の重要性、そこに気候変動がすでに影響を及ぼしはじめている状況を報告されました。Daniele氏はマレーシアを拠点とする国際ジャーナリストで、ご自身もethnic minority の出身ですが、マレーシアの半島部・島嶼部それぞれで環境資源の利用を自主的に制限する慣習があること、これらを記述した文書がないため慣習が失われがちであることを訴えました。東洋大の田所教授は、パプアニューギニアの調査地でのウナギ釣りにおいて、標的のウナギに人格を持った対象として呼びかけることで釣りが成立するという観察を紹介しました。Monash大のCapon教授はオーストラリア東部で現在も進行する街の再開発事業において、先住民の自然観を取り入れ、プラネタリーヘルスの概念が活用されている例を紹介されました。話題提供に続いてフロアーも交えて意見交換が行われ、自然を注意深く見守っている人々の存在にあらためて注目するとともに、こうした情報を広く共有することの重要性を共有してセッションを終了しました。

セッション:Healthy Cities Initiative (健康都市イニシアティブ)(418日)

このセッションでは、ヘルシー・シティーの政策と実践に学び、地域の取組から始まるプラネタリーヘルスへの貢献を話題にしました。まず、東京医科歯科大学の中村桂子博士から、住民の健康を支える都市環境を創るという視点から展開されてきたヘルシー・シティーの話がありました。オランダ・ユトレヒト市のEelco Erenberg副市長から、大気汚染と騒音が課題となっていた自動車中心の都市を「The 10 minutes city」として大変革した様子が紹介されました。車社会から自転車交通への大転換を遂げた過程について多数質問があり、ビジョンを共有して計画を着実に推進することの重要性を教わりました。健康都市連合日本支部の支部長で三重県亀山市の櫻井義之市長からは、WHOの呼びかけで日本と欧州の都市の市長が参加した、緑や水辺空間を活かした健康まちづくりの視察交流の報告がありました。亀山市の豊かな自然環境を尊重した生物多様性の保全に向けた施策も紹介されました。広島大学鹿嶋小緒里博士から、高齢化や災害の増加を背景とした日本の事例として、愛知県尾張旭市、東京都台東区、広島県東広島市の取組の紹介がありました。行政、民間、地域、農業生産者、保健センター、大学など、関係組織の連携の重要性と、Planetary Healthy Aging Indexの開発の話がありました。マレーシア保健省環境保健研究所のRohaida binti Ismail博士からは、エコヘルスアプローチの話がありました。気候変動に伴う環境変化と関連する疾患データをふまえたレジリエントな保健医療の推進が紹介されました。マレーシア・サラワク大学教授のAndrew Kiyu博士を交えてまとめを行い、プラネタリーヘルスに貢献する健康都市の政策とそれを展開するパートナーの連携、生態系の健全性の重視、コミュニティ活動の意義を確認しました。地域からの取組がますます期待されます。

「クアラルンプールアクションプラン」 と「プラネタリーヘルスロードマップと行動計画」(419日)

そして、学会最終日には、「プラネタリーヘルスロードマップと行動計画」が提言としてまとめられ「クアラルンプールアクションプラン」として、この行動計画の実施について宣言が出されました。この行動計画は世界各国から100名を超える人々が1年をかけて議論を行い、これまでの研究やエビデンスを活用し、今目の前にある現状の地球の危機に対して、生態系と人々の健康を保護し、すべての人にとって安全で公正な繁栄できる未来を築くために、世界的にどのように行動を起こしていくかについて具体的にまとめたものです。グローバルガバナンス、教育、ビジネスの3つの主要エリアへの行動計画があり、そしてこれら行動のためのコミュニケーションとアドボカシーについてとりまとめられています。この行動計画は即実行に移していき、世界中でその実行についてモニタリングを行い、オランダで開催される次回年次総会(2025年秋を予定)でその進捗について報告がされます。現在、この行動指針に沿って、プラネタリーヘルスを 1)測定する、2) コミュニケートする、3) 教育する、4) ガバナンスを構築する、5) ビジネスとのバランスをとる、そして6)プラネタリーヘルスを主流にするという6つの主要行動について、その協力者を呼びかけ中です。詳しくは、以下のサイトに記載があり、ぜひ皆様の参加をお待ちしてます。

クアラルンプールアクションプラン

https://www.planetaryhealthalliance.org/kuala-lumpur-call-to-action

プラネタリーヘルスロードマップと行動計画

https://www.planetaryhealthalliance.org/roadmap

最後に

PHAM2024は、前回の2022年大会(ボストンのハーバード大学で開催)と比較すると、学術会以外からの参加がとても多く、銀行関係者、製薬会社、IT関係者、医療関係者など多岐にわたる分野の方の参加がありました。これは、学会事務局が予想していた人数以上の現地参加だったようで、プラネタリーヘルスの動きへの大きなうねりを感じることができました。また、大変多くの現役大学生、大学院生も参加しており、各セッションで積極的に質問するなど、新しい胎動も感じた大会でした。この社会的な動きが高まる中、私たちは直面している様々な課題に対して、ともに協力して実際の行動に移す必要があります。次回2025年大会でのその実践の報告を誓い合い、PHAM2024は閉幕しました。プラネタリーヘルスアライアンス日本ハブメンバーは、この行動計画の実践に皆様方一緒に取り組んでいこうと思います。ぜひ、ご参加をお待ちしております。

2024年5月25日
プラネタリヘルスアライアンス日本ハブ
渡辺 知保
中村 桂子
鹿嶋 小緒里
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